VCファンドをトークン化することによる利点とは

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(この記事はSPiCE VCの共同創業者でありCEOであるCarlos Domingo氏の投稿を基に書いたものです。website: https://www.spicevc.com/ )

Yannick Roux氏は、Gil Dibner氏の2017年10月25日のTwitterでの一連の投稿の中で「VC(Venture Capital)ファンドをトークン化(tokenizing)することには深刻な欠陥があった」と指摘しました。この内容は、VCファンドをトークン化しようと思う人にとっては関心のあることでしょう。そのためDomingo氏はすぐにそのスレッド全体を読み、そこには関心を持った人々のいくつかの返信も含まれていました。 Domingo氏はそれまでGil Dibner氏のことを聞いたことも会ったこともありませんでしたが、実際にはDibner氏とSPiCE VCのパートナーが彼と話したことがあり、彼のプロジェクトのことを聞いたことがあるということを知りました。Dibner氏は明示的にはSPiCE VCについて言及してはいません(が、実際にはBlockchain Capitalを除いてVCファンドのトークナイズをしているところはあまりありません)。 Tweetの嵐の中で回答していくにはあまりに複雑なため、Domingo氏はこの記事の元となるブログ記事を書いたそうです。以下がその内容になります。

Gilのスレッドの主な議論は、ファンドはクローズドでありプライベートであるべきで、流動的であるべきではない理由がある(彼はこれを「特徴」であり「バグ」ではないと呼んでいます)と言っていますが、ここで流動性があるとは、人々に運用する自由を与え、リスクを取り「深く逆張りをする」ようなもので、ファンドは人々が民主的でないからこそ機能し(おそらく彼はより多くの人々に投資させるという意味において開放的であり、他の誰かがファンド内で決定を下すという意味ではないという主張であるとここでは仮定しています)、非流動的なのだということです。

同氏はまた、株式のクラウドソーシングサイト(Angel ListやOurCrowd)によって投資の開放性が既に存在しており、流動性もまたリミテッドパートナー(LP)インタレストの流通取引によって得られると主張しています(ということは、ファンドは既に「バグを含んでいる」のでは?)

スレッドの中では、潜在的な利点については議論されておらず、トークン化すると失われるプライベートエクイティ(PE)/VCファンドの欠点や「特徴」を列挙しています。これに対し、SPiCE VCのCarlos Domingo氏は真っ向から反対しています。まず最初に、ファンドをトークン化することにより失われるとされる「機能」とそれがどれほど真実なのかについて見ていきましょう。

  • トークン化されたファンドは依然としてファンド(資金の管理と投資家に代わって複数のベンチャーに投資するために設立された組織)であり、そのままポートフォリオ効果を得ます(トークン化されたファンドは複数のスタートアップ企業に投資しているため)。それをトークン化したからと言ってファンドでなくなる理由はありません
  • トークン化されたファンドは、彼がスレッドで言及したように「計算されたリスクを取ることを止めたり、深刻な欠陥や困難があるものに投資をすること」の理由もまたありません。ファンドがトークン化されているという事実は、ファンド投資の命題と、ファンドが投資に想定するリスクの水準とは関係がありません。実際に、トークン化されたファンドが投資家を惹き付けるという性質のため、伝統的なLPを扱うよりも投資に対するリスクをさらに引き上げることもあり得るでしょう。
  • トークン化されたファンドは、従来のファンドよりも「運用する自由度が少ない」必要はありません。事実、伝統的な株式モデルとは対照的に、トークンモデルの現在のガバナンスの性質上、伝統的なファンドよりもトークン化されたファンドによってより多くの運用上の自由を持つとDomingo氏は主張しています。また、あなたの投資家が流動性を持っているという事実は、必要であれば遥かに長期的な視点で投資を行なうことが可能です。これはLPインタレストの流動化のための圧力がもはや存在しないためです。Exitしたいときにすれば良いのです。
  • AngelListやOurCrowdのようなクラウドファンディングサイトが存在するため投資の民主化は進んでいる」… 確かに株式のクラウドファンディングは多くスタートアップに投資し広く成功しています。しかしながら、クラウドファンディングサイトでは、Gilがファンドの重要な「特徴」として最初に守ったポートフォリオアプローチを得られません。もう1つの問題は、シリーズA以上のラウンドでは、通常一般の投資家には利用できないということです。クラウドファンディングサイトはシード期の取引に焦点を当てており、その投資は同族事務所や相互/年金基金などのようなVCの伝統的なLP投資家に限られているためです。トークン化されたファンドは、ある意味では個々のスタートアップ企業のクラウドファンディングの進化系ですが、それらのように単一または少数のスタートアップ企業に投資し、(ほとんどの場合)適切なデューデリジェンスにアクセスすることができないのに対し、クラウドファンディングサイトで企業のに関する情報を得ることが出来るだけでなく、プロの投資家によるポートフォリオアプローチで失敗のリスクを軽減することが可能です。単一の会社で資金を運用する投資家とファンドで運用する投資家の可能性は非常に異なっています。また、シリーズAやそれ以降のような後期のVCラウンドでも投資への機会を得られます。
  • 流動性も長い間続いて来た。プライベート企業の株式やLPステークスに対して長年に渡って堅調な流通市場が存在している。」… 流動性は黒か白のようにはっきり別れているものではなく連続的なものです。もしもあなたがピカソの絵(美術の世界は非常に流動性に富みます)を持っているとしてそれを売りたい場合、買い手を見つけるまで十分に価格を下げれば良いだけです。契約で実際に売却することが可能な場合にも、LPインタレストのための流通の流動性にも同じことを適用可能です。例えば、Domingo氏はスペインの2つのファンドのLP(リミテッドパートナー)であり、実際に彼が購入したいと思うほどのインセンティブあるいはお金を持っていないGP(ジェネラルパートナー: 無限責任パートナー)以外には、LPインタレストを売ることを明示的に禁止しています。彼が行なってきた研究より、LPインタレストのための意味のある流通市場があることを見つけることは出来なかったそうです。(下図にGoogleでクイック検索した結果がありますが、情報はあまりありません。)
  • 投資判断とポートフォリオ構築のための手数料を請求しながら、民主化または流動性の名の下にファンドをトークン化することに意味があると主張するのは不誠実である。」… Gilはファンドが他の投資家に開放されており流動性を提供するために、トークン化されたファンドのGPは無償で働かなければならないと主張しています。これを広く言うと、Larry PageやTim Cookは、IPO後にGoogleやAppleの投資家に開放性と流動性を提供するという点において、彼らの企業のために無償で働かなければならないと主張することと同じです。Domingo氏は、全員が伝統的なファンドのGPであるかトークン化されたファンドのGPであるかに関わらず、全員が自分達の仕事と彼らの投資家にもたらした価値について、適切に保障されるべきであると考えています。
  • 彼の最後の発言として「もしも民主的であるならば、流動ビークルはVC-PEスタイルのリターンを提供でき、我々は皆億万長者だ。」… トークン化されたVC/PEがもたらすリターンのタイプは、伝統的なファンドのようなGPの能力に寄る所が大きく、適切な投資を選択し、タイムリーに成長してExitするのを助けます。もしも何かあれば、流動性はリターンを改善することができますが、その逆はありません。まず、投資期間を短縮してNAV(Net Asset Value: 純資産額)が十分に成長した場合、IRR(Internal Rate of Return: 内部収益率)を9〜10倍にするのではなく、3〜4年後にファンドをExitさせることが可能です。次に、流動性は価格面でプレミアム(非流動性にペナルティを課すのと同じ)があるため、実際には流動資金の方により価値があるはずです。

ここまででGilのスレッドに焦点を当てて不利な点がないことについて紹介出来たので、今度は彼が触れなかった利点について見ていきましょう。主たるものは明らかに流動性です。Mahendra Ramsinghaniが彼の著書「ベンチャーキャピタルのビジネス」で述べたように、

“VCのパートナーシップは10年のブラインドプールである ― 投資家のExitに対する能力は限られており、結果の明瞭性がない長い関係である”

ベンチャーキャピタルの典型的な投資曲線は以下のようになります。5年間はマイナスのIRRで、5年目以降は何らかのリターンを得るようになりますが、実際には7年〜10年で意味のあるリターンを生み出します。

Jean de La Rochebrochard, Venture Crapより

PayPalのDavid Sacks氏とのインタビューにて、 YammerとZenefitsは次のように言及しました:

“LPインタレストはトークン化される可能性が高い。高名なVCファームはこれに抵抗するだろうが、僅かであるが既にいくつかの新しいVCファームが存在している。もう少しでそれを実現するだろう。そしてさらにいくつか。結局のところ非流動性は、トップファームのみが正当化することが出来る資金調達における競争上のディスアドバンテージとなるだろう。”

伝統的なベンチャーキャピタルの流動性の課題について提言しているもう1つの有名なVCはTim Draperであり、彼がBancorへの投資を発表したとき(VCファンドの流動性を提供するパートナーとなっています)、次のように語りました:

“我々は、投資家、起業家、ローカルおよびグローバル企業など多様なネットワークのためのVCトークンを発行する可能性を模索し始めている。これがスマートトークン(Smart Token)であることを望み、それは1日目から継続的な流動性を得ることが可能である。”

※スマートトークンとはBancor Protocolで提唱されているトークンを保有できるトークンであり、自律的な価格決定メカニズムにより取引所を介することなく売買が可能です。

SPiCE VCはこれらの声明に同意し、VCファンドに流動性を提供することが普通になり、例外ではなく、非流動VCファンドが投資家の面前で自身を正当化することは難しいと考えています。VCファンドをトークン化することは、この業界の最大の課題を解決するため凄いことです。また、これがVCファンドがその他の金融商品と比較して小規模な資産クラスであり続けている理由でもあります。

Yannick Roux氏がDomingo氏にメンションを送り、ここで言及したように、トークンの基礎となる資産価値(ファンドのNAV)は一晩で変わるべきではないため、VCのそれは初日から流動的である必要はありません。資本を配備し、その投資が価値のあるものになっていくには数年掛かるでしょう。これは事実であり、クイックな回収を求めるような間違ったタイプの投資家を惹き付けてしまうかも知れません。しかしながら、流動性を提供し始めてからの皆さんのニーズは異なる可能性があるため、決済が容易でないことを踏まえ彼らはBancorプロトコルを導入し、最初から分散型の取引を可能とすることを決めました。これにより、限られた流動性が提供されることになります。その後、投資家がそのオプションを検討することを考える場合が増加するであろうことを考慮し、彼らは次にSPiCE VCのトークンをエクイティトークン取引所に追加し流動性を高めることを考えているようです。

流動性の観点に加えて、トークン化されたVCは他の利点を持ちます。すなわち、

  • 一つは開放性(あるいはGilの言及によるファンドの民主化)です。その通り、一度資本への長期コミットメントを解消して流動性を提供すると、非流動的なVCに投資したことのない新たな資本と投資家にもアクセスすることが可能です。また、あなたが資金調達(ファンドトークンは証券であるので、主に取引を認められた投資家に限定されています)をクラウドセールすることが出来るということは、より多くの人々にリーチすることが出来るということを意味し、それはスタートアップに対する株式のクラウドファンディングと等しいものです。
  • そして、多くのLPを管理することでもあります。トークンを発行し、資金をデジタルで管理することにより(投資と入金プロセスからスマートコントラクトを介したExitの収益配分まで)、数千人のLP/トークン保有者がいることになります。通常の紙と銀行ベースのファンドのもとではお役所仕事で溺れてしまいます。

そのため、ある人は言うでしょう。流動性だけが優れているのであれば、Draper Espritのようなファンドをリストアップするだけではどうかと。実際にYannick Roux氏はTwitterでGil Dibner氏に2度質問しています。この正当な質問に対する彼の答えは、ModusLinkと呼ばれる会社の極めて簡潔で怪しげなWikipediaのページを示すことでした。この暗号的なメッセージ抜きにYannick Roux氏の質問に対しての意見を彼らは次のように述べました。
まず、パブリックに取引されたファンドは同じ問題を解決しようとし、投資家に流動性を提供して、長期的な投資観を与えます。これは投資家に流動性を提供するためにExitすることについて心配する必要がないからです。
しかし、VCファンドのIPO(企業のIPOと同じく)は、複雑でお金のかかるプロセスであり、誰もが容易に利用できるものではありません。
ICOが企業の新しい資金調達の方法をもたらし、投資家に流動性を提供するのと同じように、ファンドをトークン化することは、遥かに簡単で、速く、安く民主的な新しい方法なのです。

Domingo氏はこれまで、数十人ものVCファンドのLPや投資家に話を聞いてきましたが、VC投資の流動性がその資産クラスに配備される資本が増えたことに対する最大の問題であると認める方は1人もいなかったそうです。現在のVCモデルは、それが始まった1950年代から基本的には進化していません。
変わらないことが問題であるという主張は誤りです。
VCは現状維持を破壊(disrupt)しようとしている企業に投資しますが、彼ら自身を破滅させるために戦うべきではありません。
VCのLPインタレストに流動性を持たせることで、そこに投資される金額を実際に増やし、全体的なVC業界を拡大し、スタートアップのエコシステム全体に利益をもたらすことを彼らは願っているのです。


Originally published at medium.com on October 30, 2017.

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